精神科など精神領域での作業療法士の役割とリハビリ方法

作業療法士が活躍する分野は多岐に渡ります。その中でも他のリハビリ職と違う部分は、精神的な病気などに対しても効果的なリハビリを行えることです。でも、具体的にどのようなことを行うのか、何を目的として行うのかなど、その領域に関わったことがない場合には様々な疑問が出てくるものですよね。

そこで今回はそのような人のために、精神領域で働く作業療法士の仕事について詳しく見ていきましょう。

精神障害の作業療法

精神的な病気を抱えた人を対象に行う作業療法には様々な目的があります。具体的にどのような目的があるのか見ていきましょう。

復職訓練

働き盛りの人にも精神的な病気は突然現れ、それが原因で働けなくなる人も数多くいます。精神領域における作業療法には、そのような人が再び職場に復帰できるように、またあるいは新しい職場で働けるようにするという目的があります。

症状の緩和・安定

精神的な病気は自然に治るものではありません。時として徐々に症状が悪化し、周囲にも大きな影響を与えることがあります。そのようなことを防ぐため、作業療法によって症状の緩和・安定を図ります。

コミュニケーション機能の向上

精神障害や発達障害などはコミュニケーション機能に影響を与え、そこからさらに社会的孤立など様々な問題へとつながります。精神領域における作業療法は、そのような人々のコミュニケーション機能の回復や向上も目的の一つです。

規則正しい生活リズムの維持

精神的な病気にかかると周囲との関わりが減ったり、注意が回らなくなることで不規則な生活リズムになったりします。しかし、このように規則正しいリズムで生活を送れなくなることは、社会生活を営んでいく上での大きな障害になります。

そこで決まった時間に作業療法を行うことで、規則正しい生活リズムを送れるようにするのも精神領域における作業療法の目的の一つです。

身体的な健康維持

精神的な病気を患うと活動する意欲が衰え、一日中ほとんどベッドの中で過ごすということも珍しくありません。そうなると今度は筋力の低下を招き、ますます活動意欲が衰えていきます。そのような悪循環を断つために、作業療法として活動を行い筋力低下を防ぐことも目的の一つです。

対象疾患

精神領域における作業療法は、様々な障害を対象にしています。対象となる疾患を全て挙げるとキリがないので、実際に働く際に特に関わることが多い疾患と、それぞれにおける作業療法の目的を挙げます。

鬱(うつ)

うつ病は精神領域における疾患の中でも特に有名な疾患と言っても良いでしょう。精神領域で作業療法士として働く際には、必ずと言っていいほど関わることになる疾患です。

うつ病は過度のストレスにより発症するケースが多いので、ストレス対処法やリラクゼーション方法の獲得などを目的として作業療法を行っていきます。また働き盛りで復職を目的とする場合は、再びうつ病を再発しないようにするために、程良いペースで仕事をこなしていくことを作業療法の中で獲得していきます。

依存症

何かに没頭すること自体は悪いことではありませんが、それがアルコールやギャンブルなど、日常生活に好ましくない影響を与えるようなものだと依存症と呼ばれます。ひどい場合は、それがきっかけとなって他人に危害を加えてしまうこともあります。

そのようなことを防ぐために、作業療法では他の楽しみを持つことや他人との関わりの中で社会的役割を見出し、依存症の再発防止ができる環境構築能力を養います。

発達障害

精神科などには自閉症などの発達障害を抱えた患者も数多くいます。中には一度社会に出て、それから入院しているという人も少なくありません。このような場合は不安障害などの二次障害をを併発しているケースも多く見られます。

なので、このような人に対しては社会復帰やコミュニケーション能力を獲得することなどを目的として作業療法を行います。

認知症

認知症は脳の萎縮や血流量の減少が原因となり、認知機能などに支障をきたす疾患です。高齢者施設で対応するケースが多いのですが「高齢者施設の受け入れ先が見つからない」「暴力行為などの周辺症状の安定を図る」という理由で精神科にも入院しています。

認知症における作業療法は、症状の進行を食い止めること、周辺症状の緩和、そして身体機能低下を防ぐことなどが目的として挙げられます。

統合失調症

統合失調症になると、幻聴や妄想などの症状によって日常生活を営むことが難しくなり、症状が進行すると他人を傷つけてしまうこともあります。また、常に幻聴の声が聞こえたり考え事が頭に浮かぶので、眠れずに生活も不規則になりがちです。

なので、統合失調症の人に対しては作業に熱中してもらい幻聴に気を取られなくすることや、不規則になってしまった生活リズムを取り戻すことなどを目的として作業療法を行っていきます。

精神障害のリハビリ方法

精神領域で作業療法士として働く場合、様々な疾患と関わらなければいけないことがわかりました。では次に上で挙げたような疾患に対して、作業療法士はどのようなリハビリを行っていくのか気になるところです。具体的に例を挙げてみていきましょう。

鬱(うつ)

うつは過度のストレスによって何もしたくない気分が大きくなっています。そのような人に対するリハビリは、作業療法がストレスにならないように気を付けながら、なおかつ気分転換できるような内容で行なっていきます。

料理活動

うつになると物忘れがひどくなったり、様々なことを考えるのが難しくなります。料理は様々なことを考えながら行うので、物事を考える力をつける訓練にはうってつけです。

また、美味しいものを食べることができるという達成感や、他の仲間と一緒に作り上げることで徐々に他人との交流に対して喜びを感じることができるというメリットもあります。

少人数でできるゲーム

ゲートボールやダーツなど少人数でもできて、なおかつ体を動かすゲームで体力をつける機会を作ります。また、他人と協力して何かを成し遂げる体験を重ねてもらうことで、他人との関わりに対するトラウマなどを取り除き、社会復帰への足がかりになるようにします。

依存症

様々な依存症は、一度治ったと思ってもくり返し発症することがあります。作業療法では依存症克服への取り組みはもちろん、一度治った後も再発しないようにするための取り組みも行います。

少人数でできるゲーム

多くの依存症は孤独になると再発しやすくなります。他人との関わりを持つことは、それだけで大きな抑止力になり依存症の克服に大きな効果を見せます。

少人数でできるゲームは「依存する対象を断つことによって生じるストレスの発散」という効果に加えて、チームで行うことによって「他人との関わりの中に楽しみを見つけることができるようにする」という効果もあります。退院後などに自分から進んで他人との関わりを持つことができるようになるので、継続的な依存症対策になります。

創作活動

他人との関わりを持つという意味では、大掛かりな物を皆で作る創作活動が効果的です。例えばひな祭りのひな壇や、クリスマスツリーの飾り付けなど、みんなで協力しながら作ることができる物であれば、その活動の中で他人との関わりに楽しみを見つけることも容易になるでしょう。

しかし、誰もが他人との関わりに楽しみを見出せるわけではありません。そのような場合は、絵画や粘土などの個人で行う創作活動も効果的です。個人で行う創作活動は退院後も趣味にしやすく、どうしても他人との関わりの中に楽しみを見出せないタイプの人でも、退院後の依存症対策の抑止力になります。

発達障害

様々な発達障害がありますが、多くの場合は他人とのコミュニケーションに問題を抱えています。なので、発達障害の人に対して行うリハビリは社会復帰を考えた時のためにコミュニケーション技術の取得や、うつなどのニ次障害を防ぐことを考えなければいけません。

また、様々な体の疾患を抱えていることもあるので、対象者に必要なことは何かを考えながらリハビリを実施していきます。

運動

ゲートボールやボーリングなど、比較的に難易度が優しいゲームで体を動かす機会を作ります。最初は他人との関わりが難しいこともあるので、作業療法士が相手となってキャッチボールをするなど簡単なことから慣らしていきます。

慣れてきたらゲートボールやボーリングなど、他人と関わることができるようなゲームも取り入れて、他人とのコミュニケーションもスムーズに行えるようにしていきます。

絵画

絵を描くことで、言葉などでうまく表現できないことを表現できるので、コミュニケーションに問題を抱えている発達障害の人には最適のストレス発散方法です。また、作品を褒められたりと、絵がきっかけとなるコミュニケーションの形が生まれたりすることもあります。

認知症

認知症によって様々なことを忘れてしまっても、過去のことは割と覚えているものです。様々な手段でその記憶を呼び起こし、脳へ刺激を与える方法を回想法と呼びます。

回想法による脳への刺激は、徘徊など周辺症状の緩和や、認知症の進行を遅らせるなど様々な効果を得ることができます。認知症の作業療法では、この回想法を積極的に取り入れていきます。

おもちゃ作り

高齢者の人が、昔よく遊んだおもちゃ作りをすることも立派な回想法としての効果があります。竹とんぼや紙飛行機、拾ってきたドングリなどでコマを作ったりします。

作った後に誰が一番遠くまで飛ばせるか、回せるかという競争をして勝負心をあおることで、過去の楽しかった気持ちを呼び覚すこともできます。

カラオケ

カラオケセットなどを使って、皆で歌を歌います。歌を歌うことはそれだけで高いストレス発散効果がありますが、対象者の青春時代に流行ったような歌はさらに脳に良い刺激を与えます。

「みんなの前で歌うのは恥ずかしい」という人も少なからずいますが、参加するだけでも他人の歌を聴いて過去のことを思い出すことができるので、それだけでも刺激になります。

統合失調症

統合失調症の患者は幻聴や妄想などによって社会生活に支障をきたします。幻聴や妄想を無理に止めることは難しいので、それらの影響を最小限にすることができるリハビリを行なっていきます。

また、統合失調症の患者は薬の影響によって活動する気力が湧きづらくなっている人も多いので、そこから生じる様々な問題にも対処していきます。

作品作り

粘土や貼り絵など、適度な難易度の作品づくりを行います。このような作業は没頭しやすく、幻聴や妄想が生じてもそれに振り回されることなく作業を続けることができる状態を作り出せます。くり返すことで幻聴や妄想に振り回されにくくなります。

運動

統合失調症の人に処方される薬は活動意欲を抑える副作用があるものが多くあります。なので薬の影響によって一日中ずっとベットの中で過ごしたりしている人も少なくありません。

そうなると筋力低下や様々な身体的な問題も生じてしまうので、ボーリングやダーツなど体を動かすことができるゲームに参加してもらいます。

リハビリを行う実施機関

精神分野の疾患は、上記のように数多くあります。では次に気になるのは、どこでこれらの患者と関わり、リハビリを行うことができるのかということですね。精神的な疾患に関連したリハビリを行いたいのであれば、次のような所で専門的に行うことができます。

精神科

精神分野で働きたいのであれば、真っ先に思い浮かぶのは精神科です。精神分野の障害であれば総合的に診る病院も多いですが、専門分野を持っている病院も数多く存在し、認知症、アルコール依存症など数多くの専門病院、病棟があります。

デイケア

デイケアは病院に併設されており、退院したものの継続的なケアが必要な人、入院までは至らなくてもリハビリを必要とする人が通う施設です。在宅でも対応できるような人が多いので、対応が難しくて頭を悩ませることは比較的少ないでしょう。

救護施設

病院のベッド数は限られていますので、新規の患者を受け入れるために症状が軽い人は退院を迫られます。しかし、中には一人暮らしがまだ完全に大丈夫とは言えないような人も退院を迫られる場合があります。

そのような時に病院と自宅の中間施設となるのがこの救護施設です。入所者に対するリハビリはもちろん、退所した人にも通所してもらいリハビリを実施します。

まとめ

精神領域に分類される疾患は数多くありますが、意外なことに実施されるリハビリは似たような物が数多くあります。しかし、その目的は疾患ごとに大きく異なるため、作業の進め方や注意しなければいけないポイントも大きく変わります。

もともと他の分野で働いていた作業療法士にとっては非常に混乱する部分ですが、それだけに奥が深い分野であるとも言えるでしょう。作業療法士としてより一層レベルアップを目指すのであれば、精神領域を経験して損することはありません。